平成25531

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勝馬投票券の払戻金は何所得に該当するのか?

 

平成25523日に大阪地方裁判所(大阪地裁)は、勝馬投票券(馬券)の払戻金を一時所得ではなく、雑所得に該当するとの判決を下しました。そこで今回のトピックスでは、@馬券の払戻金が何所得に該当するのか及びA大阪地裁が本件馬券の払戻金を雑所得に該当すると判断した理由について解説したいと思います。

 

(1) 馬券の払戻金の取扱い

   馬券の払戻金が何所得に該当するのかについては、所得税基本通達34-1で一時所得に該当すると定められています。一時所得とは「利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」という要件を満たすものです(所得税法341項)。

   これは、馬券の購入が趣味や娯楽を目的としており、競馬のレースは1レースごとに確定する独立した事象であり、馬券の購入行為に継続性が認められないと考えられるからです。

 

(2) 本件馬券の払戻金の取扱い

   大阪地裁が本件馬券の払戻金を雑所得に該当すると認定した理由については、本件被告人の状況が一般的な馬券の購入者の状況と異なることが大きな理由のようです。

   具体的には、本件被告人の馬券の購入がソフトウェアを利用した、大量かつ多額、機械的、継続的な行為で実際に多額の利益を生じさせていることから、一定の営利性や継続性があると認定されました。

   その結果、「利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得」であり雑所得に該当すると判断されました。

   なお、本件馬券の購入が、ソフトウェアを用いて最新のデータに基づいて馬券の購入量を管理、調節している点で、雑所得とされる先物取引やFX取引と類似していることも指摘されています。

   また、馬券の払戻金を一時所得に該当すると定めた所得税基本通達34-1が発出された当時、本件のようにソフトウェアを用いて継続的に馬券を購入する行為は想定されておらず、同通達を根拠に画一的に一時所得と判断するのではなく、具体的な事案の内容等を検討した上で実質に見合った所得分類を判断することが求められるという見解も示されました。

   本判決では触れられていませんが、本件馬券の払戻金は事業所得に該当するという考え方もありえますが、本件被告人が地方公務員として給与所得を得ており、事業規模を勘案すると、雑所得であり事業所得には該当しないと考えられます。

 

(3) まとめ

   本件を踏まえると、一般的には一時所得に該当するものであっても、一定の営利性や継続性、事業規模によっては、雑所得又は事業所得に該当することがあるので、個々の事案の内容に応じて慎重に判断する必要があります。

   なお、新聞報道によると国側は、この判決を不服として控訴するようですので、今後の動きに注目したいと思います。