平成2567

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一時所得と雑所得の相違点

 

前回のトピックスでは、大阪地方裁判所(大阪地裁)の判決をもとに勝馬投票券(馬券)の払戻金が何所得に該当するのかについて解説しましたが、今回のトピックスでは、本判決をもとに一時所得と雑所得の所得金額の計算方法等の違いについて解説したいと思います。

 

(1) 一時所得の金額及び課税標準の計算方法

 一時所得の金額は「その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額(50万円(その残額が50万円に満たない場合には、その残額))を控除した金額」とされ(所得税法342項、3項)、一時所得の金額の2分の1に相当する金額が所得税の課税標準とされます(所得税法2222号)。

 国側は、本件馬券の払戻金が一時所得に該当すると判断し、「一時所得に係る総収入金額」については当たり馬券の払戻金の合計額とし、「その収入を得るために支出した金額」については外れ馬券の購入金を認めず、当たり馬券の購入金のみ認めて計算し、所得税額を約57千万円とする賦課決定処分等を行っていました。

 国側が「その収入を得るために支出した金額」として外れ馬券の購入金を認めなかったのは、その支出金額が、条文上、括弧書でその収入を生じた行為又は原因ごとに直接要した金額に限られているからだと考えます。

 

(2) 雑所得の金額及び課税標準の計算方法

 雑所得の金額は公的年金等の収入がない場合には、「その年中の雑所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額」とされ(所得税法352項)、必要経費は「総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額」とされ(所得税法371項)、雑所得の金額が所得税の課税標準とされます(所得税法2221号)。

 大阪地裁は、本件馬券の払戻金が雑所得に該当すると判断し、「雑所得に係る総収入金額」については当たり馬券の払戻金の合計額とし、「必要経費」については当たり馬券の購入金だけではなく外れ馬券の購入金も認めて計算し、所得税額を約5,000万円に減額する認定を行いました。

 本判決によると、大阪地裁が「必要経費」として外れ馬券の購入金を認めたのは、本件被告人の購入方法からすれば、外れ馬券を含む全馬券購入金は当たり馬券の払戻金を得るための投下資本に当たり、外れ馬券の購入金と払戻金との間には費用収益の対応関係があり、「その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額」に該当するからとのことです。

 

(3) まとめ

 本件を踏まえると、雑所得は一時所得よりも経費が広く認められ、税負担が軽いと考えられます。ただし、一時所得は特別控除額が控除されますし、2分の1に軽減された金額が課税標準となるので、雑所得の方が一時所得よりも税負担が軽いとは一概には言えないと考えられます。