平成25621

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「その他の」と「その他」の使い分け

 「その他の」と「その他」は、似ている言葉ではありますが、法律用語としては厳密に使い分けられています。「Aその他のB」という場合には、AとBは例示の関係にあり、AはBに含まれます。一方、「Aその他B」という場合には、AとBが並列の関係にあり、AはBに含まれません。

 例えば、貸倒損失に関する法人税基本通達961(3)ロでは、「行政機関又は金融機関その他(・・・)()第三者のあつせん」とされていますが、貸倒引当金に関する法人税法施行規則25条の2の二号では、「行政機関、金融機関その他(・・・)第三者のあつせん」とされており、「その他の」と「その他」が使い分けられています(注1)。

 法人税基本通達961(3)ロでは、第三者(注2)の例示として行政機関・金融機関が挙げられており、第三者によるあっせんとして行政機関・金融機関によるあっせんが認められます。また、法人税法施行規則25条の2の二号においては、第三者に並列するものとして行政機関・金融機関が挙げられており、第三者によるあっせんのほか、行政機関・金融機関によるあっせんも認められます。

 つまり、いずれの規定にあっても第三者・行政機関・金融機関によるあっせんが認められるということになり、その規定されている内容に違いはないことから、通達と省令で「その他の」と「その他」を使い分ける必要がないのではないかと考えられます。

 なお、例外として、語呂や語感等を考慮して「その他の」とすべきところを「その他」とすることがあります。例えば、憲法211項では、「言論、出版その他(・・・)一切の表現の自由」として、本来ならば「その他の」を用いるべきところ、語呂の都合で「その他」が用いられているようです(林修三著「新版法令用語の常識」16頁(日本評論社昭和47年))。

 しかしながら、法人税基本通達961(3)ロと法人税法施行規則25条の2の二号は、ほぼ同じ文言で規定されているため、法人税法施行規則25条の2の二号のみ語呂や語感等を考慮して「その他」とする必要はなく、この例外にも当てはまらないと考えられます。

 規定されている内容が同じであるにもかかわらず、通達と省令で文言が異なっているのはおかしいのではないでしょうか。

()1 法人税以外でも、貸倒れに係る消費税額の控除に関する貸倒れの範囲を規定する消費税法施行規則18条や所得税の貸倒損失に関する所得税基本通達5111(3)ロでは、「行政機関又は金融機関その他の第三者のあつせん」とされ、所得税の貸倒引当金に関する所得税法施行規則35条では、「行政機関、金融機関その他第三者のあつせん」として、「その他の」と「その他」が使い分けられています。

  2 債権者・債務者と利害関係を共通する立場にある者などは、第三者として認められないと考えられますが、商社や主要取引先、弁護士等によるあっせんは、第三者によるあっせんとして認められると考えられます(田中豊著「不良債権の税務」51頁(大蔵財務協会平成6年)、森文人編著「法人税基本通達逐条解説」916頁(税務研究会出版局平成23年))。


法人税基本通達

(金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)

9-6-1 法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。

…略…

 (3) 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額

  イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの

  ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの

…略…

(下線は筆者による。)

 

法人税法施行規則

(更生計画認可の決定等に準ずる事由)

25条の2 令第96条第1項第1号ニ(貸倒引当金勘定への繰入限度額)に規定する財務省令で定める事由は、法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものとする。

 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの

 行政機関、金融機関その他第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容が前号に準ずるもの

(下線は筆者による。)