平成25719

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消費税等相当額の金銭交付と適格現物出資

 法人税法上の適格現物出資の場合、現物出資により取得する被現物出資法人株式の取得価額並びに被現物出資法人における現物出資資産の取得価額及び相手勘定となる資本金等の額は、いずれも現物出資法人における現物出資資産の帳簿価額相当額とされています(法人税法施行令11917号他)。しかし、消費税法上の課税資産の譲渡等に該当する現物出資の場合には、それとは無関係に消費税等が生じてしまうために、税務仕訳で消費税等分だけ貸借が一致しないといった問題が生じます(Lotus21「ニュースPRO2013716日付1201号にもそれを指摘する記事が掲載されています)。これを解消するために消費税等相当額の金銭の授受を行うと、今度は適格現物出資の適格要件の1つである「現物出資法人に被現物出資法人の株式のみが交付されるものに限る」という要件(法人税法212号の14。以下、「金銭等不交付要件」といいます。)に抵触するのではないかという問題が生ずることになります。

 

 この問題については、公益社団法人日本租税研究協会の会報「租税研究」の最新号(20137月号)に掲載されている東京国税局課税第一部審理課主査による講演録「組織再編税制における実務上の留意点」では、消費税法上の課税資産の譲渡等に該当する現物出資において、その取引に係る消費税等相当額の金銭を被現物出資法人から現物出資法人に交付したとしても、金銭等不交付要件に抵触することはない旨が述べられています。以下、その理由が述べられている部分を引用します。

 「会社法上の現物出資は、被現物出資法人に対する出資そのものであり、この出資に対する対価は当然に被現物出資法人の株式のみが交付されることとなります。照会事例のような、課税資産を現物出資する際の消費税に相当する金銭の交付は、現物出資への対価として交付されるものではなく、現物出資が消費税の課税対象となることにより本件現物出資に伴い交付されているものであり、あくまでも現物出資に係る対価は被現物出資法人の株式に限定され、この部分の適格要件は満たしているということになります。」(「租税研究」20137月号78頁)

 以上のように、この問題については、実務上の解決が図られたことにはなります。しかしながら、この理由については、次のような問題点があると思われます。

 1つめとして、会社法上の現物出資の対価は株式のみであるから、金銭が交付されたとしてもそれは現物出資の対価ではないという論理では、本件の消費税等相当分の金銭交付のみならず、現物出資に併せて行われるあらゆる金銭交付が金銭等不交付要件に抵触しないということにもなるのではないでしょうか。そうではないとするとどこで線引きすべきなのでしょうか。

 2つめとして、消費税等相当額の金銭交付は、現物出資への対価として交付されるものではないという論理は、消費税法の論理とは矛盾するように思われます。例えば、消費税法における「課税仕入れに係る支払対価の額」(消費税法306項)とは、「課税仕入れの対価の額(対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、当該課税仕入れに係る資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該課税仕入れに係る役務を提供する事業者に課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額(略)に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。)」とされており、消費税等部分はあくまで対価とみているものと思われます。

 上記の理由では、「金銭の交付は、現物出資への対価として交付されるものではなく、現物出資が消費税の課税対象となることにより本件現物出資に伴い交付されているもの」とありますが、現物出資による課税資産の譲渡等では、株式を交付することで消費税等部分を含めた対価の支払いが完了するのであり、対価(株式)とは別に受け手(仕入れ)側が消費税等相当額の金銭を相手方に交付しなければならないということにはなっていません。通達でも、現物出資の際の課税仕入れに係る支払対価の額は、交付した株式の価額とされていますし(消費税法基本通達11-4-1)、課税標準に関する国税庁の質疑応答事例でも、その取得する株式の価額に消費税等が含まれていることが読み取れます(国税庁質疑応答事例「現物出資の場合の課税標準」)。

 

 既に述べましたように、適格現物出資において消費税等が絡むときに問題が生ずることは事実です。しかしながら、消費税等部分の金銭は対価ではないという解釈によって解決することにもいささか無理があるように思われます。この問題は、あくまで立法によって解決されるべき問題ではないでしょうか。

 昨今、法律上は無理があるものの納税者の利益のために執行面で柔軟な対応を行うという例がしばしば見受けられます(例えば、法人税の3月経過日等後に改定された定期同額給与の損金不算入部分の計算、消費税のリース取引に係る仕入れ税額控除の分割控除方式等)。執行面での柔軟な対応それ自体は非常に結構なことですが、法律上無理があるのであれば、速やかにそれを是正し、法律上当然にそう読める(解釈できる)状態にあることが納税者にとって最も利益になることではないでしょうか。