平成2589

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民事再生手続開始の申立について

 

 新聞報道によると、富山で建設業を営むK工務店が、平成25712日付で富山地方裁判所へ民事再生手続開始の申立を行ったとのことです。今回のトピックスでは、本件における債権者の税務上の取扱いについて検討してみたいと思います。

 

(1) 貸倒損失の計上の検討

  民事再生手続きは大まかに、再生手続開始の申立、再生手続開始の決定、再生計画認可の決定、再生手続終結決定という流れになります。

  債務者につき再生計画認可の決定の事実が生じている場合には、その債務者に対する金銭債権の額のうちこの決定により切り捨てられた部分の金額について貸倒損失の計上が認められていますが(法人税基本通達9-6-1)、本件においては、まだ再生手続開始の申立の段階ですので、貸倒損失の計上が認められないと考えられます。 

  なお、全額回収不能の場合の法人税基本通達9-6-2、一定期間取引停止後弁済がない場合の法人税基本通達9-6-3の適用については、新聞報道の内容からは判断できませんので、個別に判断することになると考えます。

 

(2) 貸倒引当金の計上の検討

 @ 債権者が中小法人等や銀行等の場合 

   平成23年度第2次税制改正により、貸倒引当金を計上できる債権者の範囲が縮減され、貸倒引当金を計上できるのは、中小企業等や銀行等のみとなりました(法人税法52条)。

   本件において債務者につき再生手続開始の申立の事実が生じていますので、金銭債権の額から取立て等の見込みがあると認められる部分の金額を控除した金額の50%に相当する金額(以下、「50%相当金額」とします。)について個別貸倒引当金の計上が認められると考えられます(法人税法施行令9613号)。

   なお、まだ再生手続開始の申立の段階ですので、長期棚上げの場合の法人税法施行令9611号の適用はないと考えられますし、一部回収不能の場合の法人税法施行令9612号の適用については、新聞報道の内容からは判断できませんので、個別に判断することになると考えます。 

 A 債権者が銀行等以外の大法人の場合

   前述のとおり、銀行等以外の大法人は貸倒引当金の計上が認められなくなりましたが、経過措置期間中は、貸倒引当金の計上が一部認められています。

   本件において、平成2541日から平成26331日までの間に開始する事業年度については、50%相当金額の4分の2に相当する金額について個別貸倒引当金の計上が認められることになっています(旧法人税法施行令9613号、平成23年度第2次税制改正法附則131項)。

 

(3) まとめ

  債権者が貸倒損失や貸倒引当金を計上できるか否かは、債務者の民事再生手続がどの段階にあるのかで異なってきますので、計上する時期に留意する必要があります。また、銀行等以外の大法人は貸倒引当金の計上が経過措置期間後、認められなくなりますので、貸倒損失の計上の可否がますます重要になってくると考えられます。