平成24119

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中小企業金融円滑化法の最終期限を踏まえた企業再生税制等に関する税制改正要望

中小企業金融円滑化法は、平成25331日が最終期限とされています。

 この中小企業金融円滑化法の最終期限を踏まえて、平成25年度税制改正について金融庁から次のような税制改正要望が出されています(平成249月 金融庁「平成25年度税制改正要望項目」)。

 

1 企業再生税制の拡充

 (1) 再生計画認可の決定に準ずる事実の要件の緩和

現在、資産の評価損益の計上(下記〔参考〕1(4)参照)及び設立当初からの欠損金の損金算入の規定の優先適用(下記〔参考〕2(2)(6)参照)が認められる「企業再生税制」の適用がある私的整理は、「再生計画認可の決定に準ずる事実」に該当する必要があり、再生計画認可の決定に準ずる事実に該当するための要件の一つに、2以上の金融機関等が債務免除等をすること(又は政府関係金融機関等が債務免除等をすること)があります(下記〔参考〕1(2)CD(5)参照)。

例えば、メインバンク1行以外の金融機関が再生ファンド等に債権売却しているようなケース[1]では、メインバンク1行と再生ファンドによる債務免除等となり、2以上の金融機関等が債務免除等を行うことの要件を満たすことができなくなる等の問題があります。

そこで、債務免除等を行う者の範囲を拡充する要望がされています。

(出典 金融庁公表資料)

 (2) 評価損益の対象外資産の緩和

現在、企業再生税制における資産の評価損益の計上の対象外となる資産の一つに少額資産があります(下記〔参考〕1(3)D(5)参照)。企業によっては、含み損がある資産が少額資産に集中しているようなケースもあり、そうした場合には、評価損の計上ができないという問題があります。

そこで、少額資産についても評価損の計上ができるようにする要望がされています。

(出典 金融庁公表資料)

 

2 合理的な再生計画に基づく経営者の私財提供に係る譲渡所得の非課税措置

現在、再生企業の債務に係る個人保証人が保証債務の履行のために資産の譲渡をして、その履行に伴う求償権の行使が不能になった場合には、その資産の譲渡益に係る所得税が非課税となる措置が設けられています(所法64A)。

しかし、再生企業の保証人となっている経営者等が再生企業に対して私財提供をした場合や第三者に売却してその売却代金を再生企業に対して私財提供したような場合には、こうした措置がなく、資産の譲渡益に課税がされるという問題があります。

そこで、合理的な再生計画により再生企業に私財提供をした場合等においても、資産の譲渡益に係る所得税が非課税となる措置を設けるように要望がされています。

(出典 金融庁公表資料)

 


〔参考〕

1 資産の評価損益の計上

 (1) 内容

 再生計画認可の決定に準ずる事実が生じた場合において、その時の価額による資産評定を行っているときは、その評定による資産の評価損益の額は、その事実が生じた日の属する事業年度の損金の額又は益金の額に算入されます(法法25B、33C)。

 

 (2) 再生計画認可の決定に準ずる事実

上記(1)の再生計画認可の決定に準ずる事実とは、私的整理におけるその債務処理に関する計画が次の@からCの要件又は@からB及びDの要件を満たすものであることをいいます(法令242@、682@)。

@ 一般に公表された債務処理を行うための手続についての準則(公正かつ適正なものと認められるものであって、次に掲げる事項が定められているもの(その事項がその準則と一体的に定められている場合を含みます。)に限るものとし、特定の者(政府関係金融機関[2]、株式会社企業再生支援機構及び協定銀行[3]を除きます。)が専ら利用するためのものを除きます。)に従って策定されていること。

 @ 債務者の有する資産及び負債の価額の評定(資産評定)に関する事項(公正な価額による旨の定めがあるものに限ります。)

 A その計画がその準則に従って策定されたものであること並びにA及びBに掲げる要件に該当することにつき確認をする手続並びにその確認をする者(その計画に係る当事者以外の者又はその計画に従って債務免除等[4]をする者で、次の(@)から(B)に掲げる者に限ります。)に関する事項

  (@) 債務処理に関する計画(再建計画といいます。)に係る債務者である内国法人、その役員及び株主等(株主等となると見込まれる者を含みます。)並びに債権者以外の者で、その再建計画に係る債務処理について利害関係を有しないもののうち、債務処理に関する専門的な知識経験を有すると認められるもの(その者が3人以上(その内国法人の借入金その他の債務で利子の支払の基因となるものの額が10億円に満たない場合には、2人以上)選任される場合のその者に限ります(法規86@)。)

  (A) 再建計画に係る債務者に対し株式会社企業再生支援機構法第24条第1項に規定する再生支援をする株式会社企業再生支援機構

  (B) 再建計画に従って債務免除等(信託の受託者として行う債務免除等を含みます。)をする協定銀行

A 債務者の有する資産及び負債につき@@に規定する事項に従って資産評定が行われ、その資産評定による価額を基礎としたその債務者の貸借対照表が作成されていること。

B Aの貸借対照表における資産及び負債の価額、その計画における損益の見込み等に基づいて債務者に対して債務免除等をする金額が定められていること。

C 2以上の金融機関等(次に掲げる者をいい、その計画に係る債務者に対する債権が投資事業有限責任組合契約等(いわゆるLPSLLPを指します。)に係る組合財産である場合におけるその投資事業有限責任組合契約等を締結している者を除きます。)が債務免除等をすることが定められていること。

 @ 預金保険法に掲げる金融機関(協定銀行を除きます。)

 A 農水産業協同組合貯金保険法に規定する農水産業協同組合

 B 保険業法に規定する保険会社及び外国保険会社等

 C 株式会社日本政策投資銀行

 D 信用保証協会

 E 地方公共団体(@からDまでに掲げる者のうちいずれかの者とともに債務免除等をするものに限ります。)

D 政府関係金融機関、株式会社企業再生支援機構又は協定銀行(これらのうちその計画に係る債務者に対する債権が投資事業有限責任組合契約等に係る組合財産である場合におけるその投資事業有限責任組合契約等を締結しているものを除きます。)が有する債権その他一定の債権につき債務免除等をすることが定められていること。

 

 (3) 評価損益の計上の対象とならない資産

 次に掲げる資産は、この規定による資産の評価損益の計上ができないこととされています(法令242C、682B)。

@ 再生計画認可の決定に準ずる事実が生じた日の属する事業年度開始の日前5年以内に開始した各事業年度において圧縮記帳等の規定の適用を受けた減価償却資産

A 短期売買商品の譲渡損益及び時価評価損益の益金又は損金算入の規定による短期売買商品

B 売買目的有価証券の評価益又は評価損の益金又は損金算入等の規定による売買目的有価証券

C 償還有価証券の帳簿価額の調整の規定による償還有価証券

D 少額資産

  資産を一定の単位に区分した後のそれぞれの資産の価額とその資産をその一定の単位に区分した後のそれぞれの資産の帳簿価額との差額がその資産を有する内国法人の資本金等の額の2分の1に相当する金額と1,000万円(その内国法人の借入金その他の債務で利子の支払基因となるものの額が10億円に満たない場合には、100万円)とのいずれか少ない金額に満たない場合のその資産

  なお、この判定の基礎となる資本金等の額は、再生計画認可の決定に準ずる事実が生じた時の直前の資本金等の額によります(法基通4-1-9)。

 

2 一定の債務免除等があった場合の設立当初からの欠損金の損金算入

(1) 内容

 私的整理計画において一定の債務免除等があった場合において、上記1(2)の再生計画認可の決定に準ずる事実、又は、親子会社間において親会社が子会社に対して有する債権を単に免除するというようなものでなく、その債務免除等が多数の債権者によって協議の上決められる等、その決定について恣意性がなく、かつ、その内容に合理性があると認められるような事実があるときには、青色欠損金及び災害損失欠損金(青色欠損金等といいます。)及び期限切れ欠損金を含む設立当初からの欠損金の損金算入の適用が認められています(法法59A、法令117、法基通12-3-1)

 また、設立当初からの欠損金を使用できる一定の債務免除等があった場合とは、次に掲げるいずれかの場合とされています(法法59A、法令117、法基通12-3-512-3-6)。

@ 私的整理開始時にその開始前の原因から生じた債権を有する者からその債権につき債務免除を受けた場合(債務免除以外の事由により債務が消滅した場合[5]を含みます。)

A 私的整理に伴い役員若しくは株主等(役員若しくは株主等であった者を含みます。)から私財提供を受けた場合

B 再生計画認可の決定に準ずる事実があった場合の資産評定をして評価損益を計上した場合

 

(2) 設立当初からの欠損金の損金算入の規定の優先適用

 上記1(1)の資産の評価損益を計上している場合には、青色欠損金等の部分よりも優先して期限切れ欠損金の部分の使用が認められています。上記1(1)の資産の評価損益を計上していない場合でも上記(1)の規定の適用は可能ですが、青色欠損金等が優先して使用されます。

 



[1] 平成241022日付日本経済新聞朝刊の記事によりますと、中小企業金融円滑化法の最終期限を迎えるにあたって、各地における中小企業の事業再生支援を行うために

再生ファンド等を設立する動きが活発になっているようです。

[2] 株式会社日本政策金融公庫、株式会社国際協力銀行及び沖縄振興開発金融公庫をいいます。

[3] 預金保険法附則第7条第1項第1号に規定する協定銀行をいい、具体的には株式会社整理回収機構(RCC)が該当します。

[4] 債務の免除又は債権のその債務者に対する現物出資による移転(債務者においてその債務の消滅に係る利益の額が生ずることが見込まれる場合の現物出資による移転に

限ります。)、いわゆるデット・エクイティ・スワップ(DES)をいいます。

[5] 自己宛債権の現物出資を受けること、いわゆるデット・エクイティ・スワップ(DES)が行われた場合に、自己宛債権とその債権に係る債務とが混同により消滅したこ

とが該当します。