平成25年2月15日
中小企業金融円滑化法の最終期限を踏まえた企業再生税制等に関する税制改正動向について
中小企業金融円滑化法は、平成25年3月31日が最終期限とされています。
平成25年度税制改正の大綱(平成25年1月29日閣議決定)では、この中小企業金融円滑化法の廃止に伴い、次の措置が講じられることとなっています。
1 企業再生税制の拡充
⑴ 適用要件の拡大
青色申告書を提出する中小企業者について平成25年4月1日から平成28年3月31日までの間に再生計画認可の決定に準ずる事実が生じた場合で、かつ、2以上の金融機関等が有するその中小企業者に対する債権が債務処理に関する計画によって特定投資事業有限責任組合契約(注)に係る組合財産となる場合において、その中小企業者が債務処理に関する計画に従って、資産の評価換えをし、又は債務の免除を受けたときは、資産の評価損益の計上又は設立当初からの欠損金の損金算入制度の適用(評価損益の計上が行われる場合には青色欠損金等の繰越控除制度に対する優先適用)ができることとされます。
(注) 特定投資事業有限責任組合契約とは、一定の基準に適合する中小企業者の事業の再生に資する投資事業有限責任組合契約として内閣総理大臣(金融庁長官)及び経済産業大臣が指定するものをいいます。
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(出典 金融庁公表資料)
(参考)
現在、資産の評価損益の計上及び設立当初からの欠損金の損金算入の規定の優先適用が認められる「企業再生税制」の適用がある私的整理は、「再生計画認可の決定に準ずる事実」に該当する必要があり(法法25B、33C、59A)、再生計画認可の決定に準ずる事実に該当するための要件の一つに、2以上の金融機関等(その計画に係る債務者に対する債権が投資事業有限責任組合契約等に係る組合財産である場合におけるその投資事業有限責任組合契約等を締結している者は除かれます。)が債務免除等をすること(又は政府関係金融機関等が債務免除等をすること)があります(法令24の2@、68の2@、117)。
例えば、メインバンク1行以外の金融機関が投資事業有限責任組合である再生ファンド等[1]に債権売却しているようなケースでは、メインバンク1行と再生ファンドによる債務免除等となり、2以上の金融機関等が債務免除等を行うことの要件を満たすことができなくなる等の問題が指摘されていました。
⑵ 評価損益対象資産の拡大
企業再生税制における資産の評価損益の計上について、評価損益の計上の対象とならない資産の範囲から少額資産(評価差額が1,000万円(その内国法人の借入金その他の債務で利子の支払の基因となるもの(有利子負債)の額が10億円に満たない場合には、100万円)未満の資産等)が除外され、少額資産であってもその評価損益が計上できることとされます。
(出典 金融庁公表資料)
(参考)
現在、企業再生税制における資産の評価損益の計上の対象とならない資産として少額資産が挙げられています(法法25B、33C、法令24の2C五、68の2B)。企業によっては、含み損がある資産が少額資産に集中しているようなケースもあり、そうした場合には、評価損の計上ができないという問題が指摘されていました。
2 合理的な再生計画に基づく経営者の私財提供に係る譲渡所得の非課税措置
中小企業者に該当する内国法人の取締役等である個人でその内国法人の保証人であるものが、現にその内国法人の事業の用に供されている資産(有価証券は除かれます。)でその個人が所有しているものを、その内国法人に係る合理的な再生計画に基づき、平成25年4月1日から平成28年3月31日までの間にその内国法人に贈与した場合には、次に掲げる要件を満たしているときに限り、一定の手続の下でその贈与によるみなし譲渡課税(所法59@一)を適用しないこととされます。
@ その個人が、再生計画に基づき、その内国法人の債務の保証に係る保証債務の一部を履行していること。
A その再生計画に基づいて行われたその内国法人に対する資産の贈与及び保証債務の一部の履行後においても、その個人がその内国法人の債務の保証に係る保証債務を有していることが、その再生計画において見込まれていること。
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(出典 金融庁公表資料)
(参考)
現在、再生企業の債務に係る個人保証人が保証債務の履行のために資産の譲渡をして、その履行に伴う求償権の行使が不能になった場合には、その資産の譲渡益に係る所得税が
非課税となる措置が設けられています(所法64A)。
また、国税庁から個別照会事例として公表されている平成21年11月6日付「株式会社企業再生支援機構が買取決定等を行った債権の債務者に係る事業再生計画に基づき債権放棄等が行われた場合の税務上の取扱いについて」では、保証債務を履行するための資産の譲渡に関する次の照会に対して、その考え方を容認する旨の回答がされています。
株式会社企業再生支援機構が買取決定等を行った債権の債務者に係る事業再生計画に基づき債権放棄等が行われた場合の税務上の取扱いについて(一部抜粋)
(保証債務の特例)
合理的な事業再生計画が策定される際には、当該事業再生計画において支援対象者の代表者等の個人に私財提供を求めることがあります。具体的には、代表者等が支援対象者に貸し付けている個人所有の資産(以下「事業用資産」といいます。)を、当該支援対象者の機構法上の金融機関等[2]からの借入金の担保に供している場合において、@代表者等が当該事業用資産を担保権負担付のまま当該支援対象者に担保権負担がないものとして算定した適正な時価により有償で譲渡するときに、代表者等は受け取った譲渡代金により、債務超過である当該支援対象者の保証債務を履行する、あるいは、A代表者等が機構法上の金融機関等に対して当該事業用資産による代物弁済を行うことにより、債務超過である当該支援対象者の保証債務を履行します。
この場合、機構が関与して策定された合理的な事業再生計画に基づき、再生支援が行われることを前提とすれば、代表者等が保証債務の履行により取得した求償権を書面によって放棄した場合であっても、当該支援対象者が求償権の放棄を受けた後においてもなお債務超過の状況にあるときは、原則として求償権の行使は不能であり、代表者等の課税関係においては所得税法第64条第2項《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》の規定による保証債務の特例の適用があると考えられます。
しかし、再生企業の保証人となっている経営者等が再生企業に対して私財提供をした場合や第三者に売却してその売却代金を再生企業に対して私財提供したような場合には、こうした措置がなく、資産の譲渡益に課税がされるという問題が指摘されていました。
[1] 中小企業金融円滑化法の最終期限を迎えるにあたって、各地における中小企業の事業再生支援を行うために再生ファンド等を設立する動きが活発になっているようです(中小企業庁HP:http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/index.html)。
[2] 機構法上の金融機関等とは、いわゆる普通の銀行、商工組合中央金庫、日本政策投資銀行、整理回収機構、信用保証協会等をいいます。